怪物はハコの中に

架空の劇団にまつわる創作に関するものです

星が見えぬ日に

 彼女の墓前に向かうのは、命日でも誕生日でもなく、自分が出演した公演の千秋楽だと決めていた。

 適当に買ったペットボトルのミネラルウォーターを供え、祈るでもなくただ立ち尽くす。これが彼流の墓参りだった。知人からは礼儀知らずだと窘められるが、別に故人に敬意を表しているわけでもない。この場所に来て、彼女のことを考える。それこそが意義である。

……脇役をやった。途中で死ぬ、つまらない奴だった」

 だからこれも独り言だ――『今回も主役にはなれなかった』、そう再確認するだけの。今回もまた、彼女に近づけないまま終わらせてしまった、と。

 いつか、貴女と同じ舞台に上がる。その誓いが達成できないまま、無為に日々を過ごし続けるのだろう。

 人が人を忘れるとき、最初に声から忘れると聞いた。あの素晴らしい歌声を思い出せなくなる日が来るのが恐ろしい。そのとき自分はどこに立っているのだろう? かつて彼女が見た、無数の星が輝く高みへと辿り着いているだろうか。いや――絶対に忘れてはいけないし、辿り着かなくてはならないのだ。自分の生に意味があったと証明するために。

 自分にあの舞台を見せてくれた彼女の教えが、行動が、まるで無意味だったことにしないために。

……次は主役になる。もっと上に行く」

 吐き捨てるように呟いて、墓に背を向ける。中天へと昇った太陽がちくちくと髪を焼いてくる。ああ、見下ろされている。眩しさに目を背けながら、真鉄静は黙々と石畳を歩いた。